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広がる「EV減速」の波紋とドイツの思惑。ものづくりから見るEVの「問題点」

電気自動車(EV)は環境に優しいと言われるが、製造過程でのCO2排出や電池の劣化、交換コストが課題だ。EVの「問題点」とかじ取りを問われる自動車メーカーについて、製造業YouTuber ものづくり太郎さんが語る。連載コラム 日本の製造業「超」進化論。

EVが直面する
技術的・経済的なハードル

電気自動車(EV)は環境に優しいといわれていますが、ライフサイクル全体で見ると、本当にエコなのかは疑問です。なぜなら、リチウムイオン電池の製造工程では多くの二酸化炭素(CO2)を排出するからです。

リチウムイオン電池の特性極剤を流動性のあるスラリー状(液体に固体を混ぜ合わせた状態)にして、電極に塗って巻き取るプロセスでは、100m規模の巨大な電気炉で大量のエネルギーを消費します。このプロセスで発生するCO2排出量は、自動車1台を作るのに匹敵します。リチウムイオン電池を繰り返し使うと劣化することは、多くの人がご存知でしょう。充放電によって、電極の分子構造が徐々に変化するため、電極そのものが劣化することによるものです。電極を拡大すると、砂利状のものが詰まっていて、この間をイオンが通ることで電気が発生します。繰り返し使うと、この砂利状のものが細かく砕けていき、この変化は急速充電をすることで加速し、劣化を早めてしまうのです。


充放電を200回行う前(右)と行った後(左)のリチウムイオン電池の電極内部の様子。充放電後では、砂利状のものがより細かく砕けていることがわかる。(画像提供:カールツァイスのコラボ動画から引用)

また、電池パックは非常に高価で、車両価格の4分の1から3分の1にも上ります。電池パックは車体に組み込まれていて容易に取り出せないため、交換費用も膨らみます。例えば、800万円のEVを購入して、5年後に電池パックを交換するのに200万円もかかるとすれば、ユーザーにとっては大きな負担です。

こうした背景から、先日訪れたフランスのタクシーは、ほとんどが日本製のハイブリッド車でした。ハイブリッド車の制御には、高い技術力が求められます。モーターとエンジンの制御のコードは1億行にも上るといわれ、これは銀行のシステムと同じくらいの行数です。これほど高い技術が詰まったハイブリッド車が比較的手頃な価格で販売されているのは、日本の自動車メーカーの努力のたまものです。EVの先進地といわれる欧州で、多くのユーザーが選んでいるのは、コストパフォーマンスが高く、EVに比べて電池が劣化する心配が少ないハイブリッド車なのです。


コストパフォーマンスの高さから、フランスのタクシードライバーの多くは、日本のハイブリッド車を選択している。(画像提供:ものづくり太郎氏)

各国の思惑に翻弄されるEV化
ユーザーが出した答えは

このように、EVは世間で言われているほど主流にはなっていません。EUは、2035年にエンジン車の新車販売をすべて禁止すると表明していましたが、法案の成立目前で、ドイツの反対によって方針を急転換しました。ドイツ政府は、自国の自動車製造業界に配慮して、エンジン車をすべて排除するのではなく、CO2由来の合成燃料を使うエンジン車を残すという修正案を打ち出し、EUも方針転換を余儀なくされました。

EVの普及促進には政治的な側面もあり、補助金を多く出している国でEVが普及しているというのが現実です。EV政策は各国の思惑に振り回されていて、政治、産業界、ユーザーがEV化の最適解を探っています。日本製のハイブリッド車が、欧州のユーザーから選ばれているということは、現時点での最適解の1つであることを象徴している事実のように思えます。

PROFILE

ものづくり太郎


大学卒業後、大手認証機関入社。電気用品安全法業務に携わった後で、(株)ミスミグループ本社やPanasonicグループでFAや装置の拡販業務に携わる。2020年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治や経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを平易な言葉と資料を交えて解説。展示会やセミナーでの講演にも多数出演。

YouTube:@monozukuritarou
X:@monozukuritarou


FACTORY JOURNAL vol.3(2024年秋号)より転載

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