産業用ロボットとAIの融合が開く新たな可能性 ティーチングの自動化も
2025/03/25

AIロボットとは、AIが情報収集し分析や学習をして人間のように行動できるロボットをいう。従来のロボットがプログラムされた動きを繰り返すのに対し、AI搭載の産業用ロボットは、より柔軟かつ自律的に作業を行うことが可能となった。
1.ティーチングの自動化多品種多変量処理にも対応
2.故障の事前予測が可能に既存のロボットに追加搭載も
3.製造、物流、農業など広がる活用分野
4.ムーンショット型研究開発でAIとロボットの共進化
ティーチングの自動化
多品種多変量処理にも対応
ロボットティーチングにAI導入の動きも
産業用ロボットにAIを搭載することにより、まず、ロボットティーチングを自動化できる。ロボットは決められた条件下で、どう動くのかという細かな指示を与える必要がある。ロボットティーチングは、産業用ロボットに特定の作業や動きを教え込むプロセスだ。
従来、ロボットティーチングのコストは大きな課題の1つだった。外注化した場合、1日の作業費用は20~30万円とも言われる。AI搭載の産業用ロボットならAIにティーチング作業を代替させることが可能である。AIの自己学習機能が製品パターンなどを自動的に覚えるのだ。将来的には人間がティーチングをしなくともロボットが自動的に作業内容を習得する「ティーチングレス」の状態を実現することも可能となる。
AIを搭載することにより、従来の産業用ロボットが苦手としていた多品種多変量の製品を取り扱う作業にも柔軟に対応できるようになった。形状やサイズの異なる製品を扱うことができ、製品のカスタマイズに対応することで顧客ニーズに合わせた製造ができるようになる。また、大きさや向きが不揃いな製品の位置や角度などを認識して、アームを柔軟に制御して取り出す作業や、熟練工の腕や経験に頼っていた繊細な外観検査などもAI搭載ロボットで再現することが可能となった。
故障の事前予測が可能に
既存のロボットに追加搭載も
AIによってロボットの動作音や振動データを収集し解析することで、異常を自動検出する仕組みも開発されている。この仕組みによって、ロボットの故障を事前に予測できるので、メンテナンスを適切なタイミングで行うことが可能になる。
産業用ロボット向けに開発されたAIは互換性が高く、すでに現場で稼働しているロボットに追加で搭載することもできる。導入時の初期コストがかかるものの、ティーチングコストの削減につながるため、長期的に見れば先行投資としてAI搭載を検討する価値は十分にあるだろう
製造、物流、農業など
広がる活用分野
製造業の工場では、さまざまなAIロボットが導入されている。たとえば、自動車では溶接、塗装、組み立てなど多くの工程で活用されている。電子部品では小型部品の組み立てや検査など、高精度な作業が求められる分野でも活躍している。力覚制御は、組み立て作業などの際に物を適切なチカラでつかみ、求められた位置に正確にはめこむなどの目的で使われるが、力覚センサーとAIを組み合わせることで、繊細な作業や組み立て作業の精度が向上する。
カメラとAIの組み合わせは、製品の形状や位置を認識することに役立つ。製品の外観検査や検品作業ができるAIロボットはあらゆる企業で導入が始まっている。製造現場の設備メンテナンス時期をIoTとAIロボットの連携で予測し、設備・機器の故障を防止して稼働率を最大化するという動きもみられる。
商品のピッキングや梱包など、人手不足が深刻な物流業界でも導入が進んでいる。荷物の搬出や荷積みができるロボットなどが登場しており、近年、どのようにトラックに荷物を積めば荷崩れが起きないかを自己学習できるロボットが話題を集めている。AIによる自動運転で荷物運搬する技術も注目されている。
建設業や農業で使われるドローンは、AI搭載型が増えてきている。高層建築物の外観調査に使われ、田畑を飛び回るドローンは、農作物に害虫が付着していないかを認識し、ピンポイントで農薬を散布していく。そして、医療においてはAIロボットの手術精度が向上しているとの研究発表が出されており、医療の効率化、安全性・信頼性の向上につながると期待されている。
ムーンショット型研究開発で
AIとロボットの共進化
「ムーンショット目標3」を2000年1月に策定
内閣府は「ムーンショット型研究開発制度」を設けている。同制度は革新的な技術開発の創出のため、大胆な発想に基づく大型研究プログラムを推進する取り組みだ。挑戦的な研究開発を支援し、少子高齢化・大規模な自然災害・地球温暖化などの困難な問題を解決して、人々が幸福で豊かに暮らせる未来社会の構築を目指す。
同制度は9つの目標を設定している。2000年1月に策定した「ムーンショット目標3」では、50年までにAIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現するとしている。AIを搭載した産業用ロボットは、あらゆる業種の仕事を効率化し、新たなビジネスモデルの創出に貢献する可能性を秘めている。しかし、その導入にあたってはロボットを扱う人材の育成や社会全体のリテラシー向上が求められている。
DATA
取材・文/横山渉