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【中小製造業工場自動化の現状と課題】東京の町工場ロボット導入の現場リポート

中小企業にとって、ロボット導入はまだまだハードルが高い。東京都品川区は、地元企業のロボット導入やDX化を手厚く支援している。工作機械にロボットアームを導入した品川区の企業を取材した。

メイン画像:伸光製作所 高橋智章取締役営業部長(左)、深沢善浩工場長(右)

NC旋盤を用いて
極小樹脂部品を切削加工

東急目黒線の西小山駅から徒歩7分。伸光製作所は、閑静な住宅街の一角にある町工場だ。3階建てのビルの1階と地下に作業場がある。同社は、NC旋盤を用いた樹脂の精密切削加工が専門だ。


伸光製作所(東京都品川区)

プラスチックなどの樹脂加工には、大きく分けて、刃物で材料を削る「切削加工」と、熱でやわらかくして型に流す「成形加工」の2つがあり、伸光製作所は切削加工を専門としている。なかでも、外径0.5~0.7ミリの極小で精密な製品を得意としていて、オリジナルの刃物や加工方法を駆使して、米粒の10分の1程度の微細なものも加工できる。

その技術を電子精密機器や半導体製造機器、医療機器など、高精度な部品が求められる分野で活かしている。高橋智章取締役営業部長は「リーマンショック後の一時期を除き、右肩上がりで安定経営を続けてきました」と胸を張る。


細長い円筒形の樹脂原料。

中国メーカーの台頭で、顧客が取引先を海外に移した時期もあるが、1社からの受注比率を20%以下に抑えて多軸化を進めたことも功を奏している。

同社がロボットを導入したのは、品川区からのはたらきかけがきっかけだという。作業省力化を支援する品川区の助成を受けて、2015年2月に栃木県の那須工場にロボットアーム1台を導入した。同年3月にもう1台導入し、22年には品川区の本社に1台導入した。工作機械にロボットアームを接続して、現在は計3台が稼働している。


樹脂を加工する工作機械。

品川区が技術者を派遣し
ロボット導入を支援

深沢善浩工場長は「ロボットは24時間体制で稼働できるので、従業員1人以上の賃金相当の効果がありました」と成果を語る。品川区の助成については、金銭面よりそれ以外の部分が大きかったという。「ロボット導入支援の技術者を民間企業から派遣していただき、たいへん助かりました。数か月にわたって定期的に訪れ、スムーズに導入することができました」。

同社のようなモノづくり企業には、熟練技術者が少なくないが、その工程も将来的にはロボットで自動化されるのだろうか。取締役の高橋氏は「たとえば、工作機械の刃物は徐々に切れ味が悪くなりますが、熟練技術者はその音を聞いて切れ味が落ちていることを察知します。振動センサーのような装置を工作機械に取り付けることによって、切れ味の低下を自動的に検知することができるようになります。これからは、熟練技術者だけに頼らず、機械に頼れる部分は機械に頼っていかなければならないと考えています」と説明する。

しかし、自動化が簡単ではない工程も多いという。同社では、以前から自動外観検査装置の導入を検討している。可能であれば、AIを活用して製品の画像を分析し、不具合がないかどうかをチェックしたいと考えているが、同社の製品は極小サイズのため、大手カメラメーカーに相談しても、対応できるレンズがないという。このため、いまでも熟練技術者が肉眼で顕微鏡検査を実施している。

看板商品がなければ
ロボット導入に踏み切れない


接触型センサによる全長検査。

中小企業でロボット導入がなぜ進まないのか。基本的なことだが、産業用ロボットは製品を効率的に量産化するためのシステムである。工場長の深沢氏は「多品種少量出荷の製品だと、生産品目を変更するたびにロボットの設定変更に時間がかかり、かえって非効率になってしまいます。中小規模の工場では、ロボットが常時稼働するくらいの大量の需要がある看板商品がなければ、ロボットの導入に踏み切ることができません」と打ち明ける。


工作機械に装着したロボットアーム。

円安効果で価格競争力が高まっているとはいえ、今後も海外メーカーに打ち勝つことが業績向上につながる。同社の強みは極小部品を大量生産することだが、単純に大量生産となると、中国メーカーは価格の安さで勝負を仕掛けてくる。生き残るためのポイントは、やはり品質だ。「中国メーカーも品質は良くなっていますが、いまはまだ当社が勝っている状況です。追いつかれないように、品質向上に努めていきます。そうしたなかで、さらに小さいものを作る技術を磨いていく必要があると考えています」と取締役の高橋氏は表情を引き締める。


ロボットの周囲に安全柵を設置。

近年は世界規模で半導体需要が伸びており、部品メーカーにも変革の波が押し寄せている。半導体は微細化が進み、複雑さが増している。伸光製作所は、半導体製造装置メーカーからの発注が多く、さらなる品質向上と安定生産が求められている。同社では、いまのところロボットを増設する予定はない。しかし、半導体の部品などで、継続的な大量の発注があれば、新たな自動化装置の導入を検討していく考えだ。

東京都品川区
作業省力化・DX化を手厚く支援


今年5月にDX推進フォーラムを開催(写真提供 品川区役所)

2019年度から
中小企業の作業省力化を推進

東京都品川区は、日本の近代工業化の先駆けとして発展を遂げた地域であり、電機・機械分野で高い技術力を誇る工業集積地として発展してきた。すでに地方や海外への生産部門の移転は相当程度完了しており、現在は本社や研究開発機能を残すのみとなっている企業が多い。一方で、大崎、五反田地区にはソフト系IT産業の立地が進みつつあるほか、天王洲地区は大手企業の本社や外資系企業の国内拠点ともなっている。

品川区役所は、地元の中小企業の生産性向上などによる競争力を高めるため、2019年度から中小企業の作業省力化を目的とした自動化装置やロボット、22年度からはDX化やデジタル技術の導入を包括的に支援している。

作業省力化・DX化を
体系的にハンズオン支援

品川区では、公式サイトに中小企業への支援策をまとめた専用サイトを開設している。区では、自動化・ロボット化に要する設備経費の一部を助成するほか、導入のポイントや先進事例を紹介するセミナーやデジタル人材育成講座を開催している。

財政規模やマンパワーに限りがあるなか、市区町村レベルの自治体が、中小企業の作業省力化・DX化を包括的にハンズオンで支援するのは珍しいという。品川区地域産業振興課の担当者は、「地元の中小企業のDX化、デジタル技術の導入を推進することにより、生産性向上による競争力強化を支援し、活性化を図るために引き続きサポートしていきたい」と話している。


写真:金子怜史 
取材・文:横山渉

FACTORY JOURNAL vol.4(2024年冬号)より転載

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