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【ものづくり太郎の日本の製造業「超」進化論】国家戦略のビジネス化とAIの驚異、世界で勝ち残るためのマインドとは?

ドイツの展示会で見た製造業の未来とは?製造業YouTuber ものづくり太郎さんの連載コラム 日本の製造業「超」進化論。1回目は、国家戦略のビジネス化とAIの驚異、世界で勝ち残るためのマインドを熱く語る。

メイン画像:国として出展しているノルウェーのブース。化石資源の豊富なノルウェーだが、次のエネルギー戦略としてグリーン水素に力を入れる(出典 株式会社ブーステック)

緻密な欧州の水素戦略
日本の感度の低さが浮き彫り

今年4月、ドイツのハノーファーで開催された欧州最大の製造業の展示会・ハノーファーメッセに行ってきました。ドイツの国家戦略である「インダストリー4.0」や、エネルギー戦略という製造業の上流から、制御機器、ロボット、機構部品まで、網羅的に製造業の全体像が展示されています。日本ではほとんど出展されないグーグルやアマゾンのソフトウェア、ダッソー(フランス)やジーメンスなど大手CADベンダーのソリューションも競い合うように展示され、それぞれが極めて未来志向。「この先、社会はどう変わるのか。われわれはそれにどう対処するべきか」という問いに対する答えがはっきりと示されていました。

例えば、ドイツと北海を隔てて位置するノルウェーのブースには、水力発電の余った電気で水素を作り、ドイツに運ぶためのサプライチェーンの計画が展示されています。開催初日の朝には、ドイツのショルツ首相が訪れました。ドイツの州のブースには、水素ボンベをコンテナに入れて運ぶ車両や船舶のモデル、それらを運用するシステムが並び、水素のサプライチェーンを形作るビジネスが具現化されていました。ノルウェーの水素戦略や、エネルギー確保を急ぐドイツの思惑が透けて見えます。

日本も水素戦略を打ち出していますが、ドイツやノルウェーほど具体的ではありません。何より、日本の企業が国家戦略についていっているのか疑問です。ホンダモーターヨーロッパが水素で発電する燃料電池システムを展示していましたが、「日本では反応が薄いのでハノーファーで初披露した」と話していました。それだけ、世界のトレンドに対する国内企業のアンテナが低いということではないでしょうか。


ホンダモーターヨーロッパは、水素で発電する「Honda e:Fuel Cell System」をドイツで初公開した(出典 株式会社ブーステック)

AIの破壊的イノベーション
生き残りをかけた企業連携

チャットGPTに代表される、AIを活用したソリューションも目覚ましいものがあります。制御機器メーカーの大手であるシュナイダーは、仕様要件をインプットするだけで自動で制御を構築する、チャットGPTを使った新サービスを年内にもリリースする考えです。また、コンサル企業のキャップジェミニ(フランス)は、AIを使って製品設計のエンジニアリングを最適化する驚異的なプランを打ち出しました。実用化されれば、メーカーの設計部門の半分がAIに取って代わられるでしょう。

世界の動きからわかるのは、これからは1社だけでは勝ち残っていけないということ。ユーザーは、サプライチェーンマネジメントやプロダクトサイクルマネジメントといった、工場側のソリューションからオペレーションまで、一括でカバーできる企業を求めています。製品の生産目標を受注データとひも付け、その先のサプライチェーンを構築したいといったニーズに応えるには、1社では対応できません。日本企業が好むガラパゴス化は得策ではなく、オープンになって他の企業と連携しなければ、世界では戦えないのです。

世界では、多くの国や企業がコラボレーションを発表し、国際的なサプライチェーンを作り上げ、消費を生み出そうとしています。世界で戦うために重要なことは、オープン志向になって他社とのコラボレーションの可能性を探ること。経営者が世界のトレンドに目を向け、長期的なビジョンと大なたを振るって組織を改革していく覚悟を持つことです。

PROFILE

ものづくり太郎


大学卒業後、大手認証機関入社。電気用品安全法業務に携わった後で、株式会社ミスミグループ本社やPanasonicグループでFAや装置の拡販業務に携わる。2020年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治や経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを平易な言葉と資料を交えて解説。展示会やセミナーでの講演にも多数出演。
YouTube:@monozukuritarou
X:@monozukuritarou


FACTORY JOURNAL vol.2(2024年夏号)より転載

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