国の「ロボット新戦略」から10年。海外製ロボットの革新に日本はどう立ち向かうべきか。
2025/03/04

日本のロボットは海外製ロボットと比較してどうか。日本が誇る精密技術と納期の短さ、中国製ロボットの台頭、そして欧米が進めるヒューマノイドの社会実装の最前線を、製造業YouTuber ものづくり太郎さんが語る。連載コラム 日本の製造業「超」進化論。
メイン画像:カリフォルニアの企業によるヒューマノイドロボットは、すでに第四世代まで開発されている。(画像提供:ものづくり太郎氏)
1.日本のロボットの強みは短い納期と高い精度
2.中国製の価格破壊と欧米の次世代ロボット
日本のロボットの強みは
短い納期と高い精度
国の「ロボット新戦略」が2015年2月に策定されてから、約10年が経過しました。日本には、世界の四大ロボットメーカーの2社である安川電機とファナックがあります。納期が早く、精度の高いものを作ることにおいては、極めて大きなアドバンテージがあると考えています。例えば、世界中の製造現場で高く評価されているファナックは、ロボットを動かすためのコントローラーの基板などの部品から完成まで全自動で制作できるといわれています。人の手が介在しないため、世界のどこで作っても、安価で品質の高い製品を生産できるのです。これは、まさに日本のロボットの真骨頂です。
また、歯車の制御の分野でも日本のメーカーは突出しています。6軸のロボットでも、軸のズレを抑えて、非常に高い精度で動作できるモーションコントロール技術を持っています。最近は、AIを使って動作範囲をより拡大できるようになっていて、日本のモーションコントロール技術は精密機器の製造現場に欠かせないものになっています。
中国製の価格破壊と
欧米の次世代ロボット
その一方で、ロボット新戦略によってロボットの革新が著しく進んだかと問われると、必ずしもそうではありません。もちろん、日本製ロボットの品質は極めて高いのですが、欧米のように革新的なブレイクスルーは起きていないと考えています。デジタル分野では、現実の世界の情報を収集してコンピューター上に再現するデジタルツインなど、進化が見られますが、ロボットの分野ではそれほどのイノベーションが起きていないようです。
世界に目を向けると、近年、中国製の協働ロボットが安価に入手できるようになりました。中には100万円を下回る価格のものもあり、価格破壊の様相を呈しています。品質は、まだそこまで高くないようですが、製造現場での使用には十分耐えられるものになっているようです。
また、台湾製では、ロボットとカメラが一体化した製品が人気を博しています。従来、ロボットとカメラを一緒に使おうとすると、インテグレートし、さまざまな調整をしなければなりませんでした。しかし、あるメーカーのロボットには、初めからカメラが搭載されているので、こうした調整の手間を省くことができ、使いやすいというメリットがあります。
さらに、欧米では人型ロボット(ヒューマノイド)が社会実装され始めています。例えば、BMWグループは、米国のボストン・ダイナミクスというロボット開発会社の4足歩行ロボットを工場に導入しています。人に代わってロボットが工場で働く時代がそこまできているのです。
BMWの生産ラインに導入されたヒューマノイドロボットが作業する様子。(画像提供:ものづくり太郎氏)
日本では、本田技研工業が2足歩行のロボット「アシモ」を開発したにも関わらず、こうした人型ロボットの分野でも海外の企業に遅れをとっています。ものづくりの世界にイノベーションを起こすには、リスクを恐れずトライアンドエラーを繰り返し、失敗から多くを学んで、挑戦し続けることが重要だと思います。
PROFILE
ものづくり太郎
大学卒業後、大手認証機関入社。電気用品安全法業務に携わった後で、(株)ミスミグループ本社やPanasonicグループでFAや装置の拡販業務に携わる。2020年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治や経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを平易な言葉と資料を交えて解説。展示会やセミナーでの講演にも多数出演。
YouTube:@monozukuritarou
X:@monozukuritarou
取材・文:山下幸恵(office SOTO)
FACTORY JOURNAL vol.4(2024年冬号)より転載