帝国データバンク発表 過去最多の人手不足倒産
2025/09/09

2024年度の「人手不足倒産」は過去最多の350件に達し、建設・物流業を中心に高水準が続く。賃上げ機運の高まりと採用難が背景にあり、今後も小規模企業を中心に厳しい状況が予想される。
建設・物流を中心に、企業倒産の新たな主因として「人手不足」が定着しつつある。帝国データバンクの調査によれば、2024年度の人手不足倒産は過去最多の350件に達し、2年連続で記録を更新した。人件費高騰、採用難、転職者増が重なり、特に賃上げ余力に乏しい中小・零細企業に深刻な打撃を与えている。背景には「2024年問題」などの労働環境変化も影響しており、今後も高水準での推移が予測される。再エネや建設業界でも同様の構造的課題を抱えるなか、価格転嫁の難しさと人材戦略が経営の死命を制する局面を迎えている。
以下、株式会社帝国データバンクのプレスリリースより
人手不足倒産の動向調査(2024年度)
2025年4月4日
2024年度の人手不足倒産 過去最多の350件
「2024年問題」から1年経過、 建設・物流業で高水準続く株式会社帝国データバンクは、従業員の離職や採用難等による人手不足を要因とする「人手不足倒産」の発生状況について調査・分析を行った。
SUMMARY
2024年度の人手不足倒産は350件発生し、2年連続で過去最多を更新した。足元では、賃上げ機運が加速したことで転職者が増加しており、特に中小企業にとって人材の確保・定着は厳しい局面を迎えている。適正な価格転嫁が進まない状況が続くと、賃上げ余力のない小規模事業者を中心に、今後も人手不足倒産は高水準で推移することが見込まれる。
集計期間:2013年1月1日~2025年3月31日まで
集計対象:負債1000万円以上・法的整理による倒産
2024年度の人手不足倒産は350件、2年連続で過去最多を更新
従業員の退職や採用難、人件費高騰などを原因とする人手不足倒産(法的整理、負債1000万円以上)は、2024年度に350件判明した。前年度(313件)は、2013年度の集計開始以降で最多となっていたが、それをさらに上回る結果となった。
業種別では、建設業が111件(前年度比+17件)で最も多く、初めて100件を上回り、全体の約3割を占めた。次いで多かったのは物流業の42件で、前年からは減少(同-4件)したものの、引き続き多くを占めた。両業種ともに以前から深刻な人手不足の影響による倒産が多発していたが、2024年4月に時間外労働の新たな上限規制が適用された「2024年問題」を受けて、人手不足倒産が引き続き高水準で発生し続けている。
足元では賃上げに向けた動きが活発化している。大企業が若手人材のさらなる採用強化に乗り出したことで「初任給30万円時代」とも呼ばれるようになり、また政府が最低賃金を2020年代に全国加重平均1500円へ引き上げると表明したことなどから、今後も賃上げ機運はさらに加速すると予想される。さらに、より良い待遇を目指す動きが強まったことで転職者数も増加している。そうした背景から、人材獲得競争はますます激化するとみられ、賃上げ余力を有していない小規模事業者を中心に、「賃上げ難型」の人手不足倒産が高水準で推移すると見込まれる。
人材の確保・定着に欠かせない賃上げの原資を捻出するうえで、価格転嫁がカギとなる。しかし、受注競争が厳しい業界において価格転嫁は容易ではない。実際に、全業種平均の価格転嫁率は40.6%(100円のコストアップに対して40.6円を売値に転嫁できた計算)だったのに対して、建設業は39.6%にとどまり、物流業も32.6%と厳しい。価格転嫁率の調査を開始した2022年当時より上向いてきたものの、「価格転嫁を取引先に説明する際に、モノの値上がり分であれば納得されやすいが、賃上げ目的だとなかなか受け入れてもらえない」との声も聞かれる。今後、「価格転嫁→賃上げ」という流れが実現するかどうかが、人手不足倒産の動向を占う指標の一つとなろう。
人材戦略と価格転嫁が生き残りの分岐点
人手不足倒産の急増は、単に雇用数の問題ではなく、企業が「人に選ばれる」体制を築けるかどうかの試金石である。賃上げへの期待が強まるなか、原資確保の手段として不可欠なのが価格転嫁だが、実際にはコスト増分の半分すら転嫁できていない企業が多い。とりわけ建設・物流など労働集約型産業では、単価交渉力と業界構造の見直しが急務である。人材確保と事業継続の両立を図るには、「給与が払えないから辞められる」悪循環からの脱却が不可欠だ。今後の倒産動向は、まさに人材投資と価格戦略の整合性にかかっている。